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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(あ)2642号 決定

本籍

岡山県真庭郡美甘村大字美甘三九三一番地

住居

岡山市東古松五丁目九番三号

会社役員

(旧姓大西)

飛田正男

明治四五年六月二九日生

本店所在地

大阪市大淀区豊崎西通一丁目一二番一号

山陽開発株式会社

(旧姓大西)

代表者

代表取締役 飛田正男

城田茂徳

右飛田正男に対する背任、宅地建物取引業法違反、法人税法違反、右山陽開発株式会社に対する法人税法違反各被告事件について、昭和四九年一〇月三一日広島高等裁判所岡山支部が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人赤司卓治の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 藤林益三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

昭和四九年(あ)第二六四二号

被告人 飛田正男

同 山陽開発株式会社

代表者 代表取締役 飛田正男

同 城田茂徳

弁護人赤司卓治の上告趣意(昭和五〇年一月二〇日付)

第一 原判決は罪とならない事実を判示し、被告人に有罪の判決を言渡した違法がある。破棄を免れない。

一、原判示第一(法人税法違反)

原判示は、被告人大西正男こと飛田正男(以下、被告人と略称)は、昭和四三年七月、被告人山陽開発株式会社(以下、被告会社と略称)の代表取締役となり、同年九月、倉敷市西坂水別地区の山林(八〇%保安林)約一〇万坪を富士文化興業株式会社と旭産業株式会社の両社(これらの会社を含めて以下、両社と略称)と開発宅造計画を立て、金二億四千万円を両社から引出して買収して、被告会社の名義とし、それから後、右両者名義にしたが、前記山林の地主から被告会社が買収した価格は金一億五百万円であつた。即ち、その差額を精算して、利益金と看做され、それに対する法人税をほ脱したとなつている。

しかし、被告会社と両社との契約の真情は売買行為ではなく、融資であつた。これらの契約書や覚書の真意は、〈1〉当初から融資申込みであつた。〈2〉保安林解除、工事設計、造成工事ならびにその後の販売一切は、被告会社が行い、それらの資金一切は両社が負担する。〈3〉最後に土地代金、諸経費、工事代金及び土地代金二億四千万円に対する日歩三銭八厘の利息を差引いて、残りの利益は両社が八〇%、被告会社が二〇%を分配するにあつた。

これらの諸点については、昭和四八年一二月及び同四九年六月、広島高裁岡山支部に対し、城田茂徳外二名の上申書に於て詳述したとおりである。

前述する如く、契約の真意は融資であつて、被告会社が両社に名義変更したのは、土地に対する保全にすぎなかつたから、事業年度に計上しなかつたのである。

ちなみに、被告会社は事件発生後、課税額の内、金四三〇万円を国税庁に納付した。

二、原判示第二の一(宅地建物取引業法の違反)

倉敷市西坂水別地区の農地等の売買については、被告人は被告会社米子支店の係員、岡本明が宅地建物取引業の免許を受けていたので、これが取引の当事者として事に当るべく指令していたところ、同支店の社員がこれを誤つて被告会社が取扱うことにしたので、被告人にはこの点につき何ら犯意は存在しない。

三、判示第二の二(業務上横領)

前項記載の倉敷市西坂水別地区四三筆約一〇万坪の内、倉敷市所有の〈1〉砂留場六三四m2〈2〉墓地四九五m2を、雑種地に地目変更して、倉敷市から払下するため、昭和四四年一〇月九日、右二筆の払下代金二八万五千円を、被告会社は市に納入して翌年八月払下完了し、被告会社の名義となつた。

両社と被告会社との契約では、被告会社が払下げたら両社に名義変更することになつていたが、被告会社は二筆の払下について、着工、保安林解除その他に厖大な経費を投じたのである。それらの経費は契約上当然、両者が負担すべきものであるが、未だに支払われていない。

即ち、〈1〉昭和四三年一〇月、保安林解除申請に必要な測量費金二四〇万円(大阪市の大和設計(株)に被告会社が代払し、それと共に、これに関しての代替物設計図面料、技師人件費等その他諸経費金二〇〇万円も代払済である。〈2〉昭和四三年一一月、払下げた砂留場の宅地造成代金二〇〇万円も被告会社は山本工務店に代払をしている。

右、合計金六四〇余万円は両者は被告会社に対して未払いである。この点につき、昭和四四年四月ごろ、両社は前記開発事業から手を引くべく、他にスポンサーを探すよう被告会社に指示し、その代金は金四億円と言われたので、被告会社はそれでは右の未収金はそのままになると答え、昭和四五年八月、払下げをした後でも両社に名義変更せず、高山房子に抵当権を設定して保全をしたのである。

現在、被告会社は両者を相手取り目下、岡山地裁倉敷支部に、〈1〉測量費金二四〇万円、〈2〉砂留場(払下の内)造成工事代金二〇〇万円、〈3〉右地内の採掘権代金一、一〇〇万円等の立替金につき請求訴訟を提起している。

その後、昭和四四年五月、被告会社は前採掘権者から譲渡を受け、両社に名義変更をしている。

前記について、被告人飛田正男は取引金の剰余を自己に収得していないことは城田茂徳ほか二名が広島高裁岡山支部に提出したる上申書に詳述するところで、これらの事実よりするも原判決は事実を充分に把握したと言うことは出来ない。

第二 原判決の量刑は不当である。

弁護人の主張は前述のとおりであるが、若し仮りにこれが容れないとしても被告人に対し懲役一年、被告会社に対し罰金五〇〇万円を科したことは重きに失する。

なお、背任の被害については既に解消されている。

以上

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